セイウチと大工~鏡の国のアリスより~
第4章でトゥイードルディーがアリスに暗誦してみせる詩。
セイウチと大工 (『鏡の国のアリス』より)
太陽は海に照りつける
ぎらぎら照りつける
荒れ波をなだめて輝かせ、せいいっぱいの大仕事おかしなことだ、今はすっかり真夜中なのに
月はむっつり照りつける
太陽がこんなとこにまでしゃしゃり出るのが気に障る
もう一日は終わったのに
「まったく何てずうずうしい」と月「楽しい時が台無しだ」
海は濡れてる、思いきり
砂はさらさら乾いてる
雲ひとつだって見えるものか、だって空には雲ひとつないんだから
空には鳥一羽も飛んでやしない
飛ぶ鳥なんか一羽もいない
セイウチと大工が近くを歩いてた
見るものすべてに涙を流す
なんてたくさんの砂だろう
「この砂片付けられたらなあ」二人は言った
「素敵になるのに!」
「女中さんが七人、モップ七本で半年ずっと掃き続けたならどうだろう」とセイウチが言った
「きれいに全部片づくかな」
「どうだかね」と大工が言った
そして二人は涙にくれた
「おお牡蠣くんたち、一緒に歩こう!」セイウチが熱心に呼びかけた
「楽しいお散歩、楽しいお話、しょっぱい浜辺を歩こうじゃないか。一度に四人までだけど両手にめいめい手を取って」
年寄り牡蠣はじっと見て口をつぐんだままだった
年寄り牡蠣は片目をつむり重い頭を横に振った
牡蠣床を離れる気はないよ口を開いてそう言う代わり
けれども若い牡蠣たち四人、急いでそばへやって来てみんな夢中で行きたがる
外套にブラシもかけたし、顔もきれいに洗ったし、靴もぴかぴか、小ぎれいに、おかしなことだよ、足もないのに
後からもう四人の牡蠣が追って来てその後からもまた四人でっぷりしたのが急いで続く
その後からも、まだ後からも白波かきわけぴょんぴょん飛んで浜辺を目指してやって来た
セイウチと大工は、一マイルも歩いた後で岩にどっかり腰を下ろした
ちょうどぴったりの良い低さ
小さな牡蠣たちは一列に並んでじっと待っていた
「さあ時は来た、」とセイウチが言った
「今が、いろいろ話す時。靴のこと。船のこと。封蠟のこと。キャベツのこと。王様たちのこと。どうして海が煮立っているのか。豚には羽根があるのかないのか」
「でもちょっと待って」と牡蠣が叫んだ。
「お話する前に息が切れちゃってぼくたちみんな太っちょで!」
「急ぎはせんよ!」と大工が言った
そこで牡蠣たちは感謝した
「パンが一斤」セイウチが言った「ぜひとも要るなコショウにお酢もあるとなおよろしい。それじゃあ牡蠣たち、準備がよければ食べようか」
「でもぼくたちをじゃないでしょう!」
牡蠣は叫んだ、少し青くなって
「あんなに親切にしてくださった後で…そんな仕打ちはあんまりです!」
「今夜は素敵だ」セイウチは言った
「いい眺めじゃないか」
「ついて来てくれてありがとう!親切なことだったね」
大工はこれには何も言わず
「もう一切れ切ってくれ!あんた金つんぼかね二度頼まなきゃならんのか」
「悲しいことだ」とセイウチは言った
「あの子たちをだますなんてこんなに遠くに連れて来てあんなに速く歩かせて!」
大工はこれには何も言わず「バターを厚く塗りすぎだ!」
「泣けるじゃないか」とセイウチは言う
「胸が痛むよ、ひどい話だ」めそめそ泣きながらセイウチは選り分けた
一番大きいやつばかり
ハンカチをしっかり握りしめ泣きの涙をぬぐいながら
「おお牡蠣くんたちよ!」と大工は言った
「楽しい散歩だったね!さあ、そろそろ帰るとするかね?」
けれども答えは一つもなかった
それもそのはず、一つのこらずみんな食べられちゃったのだから
涙を流しながら、カキを食べまくるセイウチ。
詩を聞いたアリスが、セイウチのほうがいい、カキをかわいそうに思ったから、と言うと、トゥィードルダムは、セイウチは大工よりたくさん食べた、ハンカチを口に当てて隠しながら、という。それを聞いてアリスはどちらがよりましか悩むのだが……という場面なのです。結局アリスは「どっちもずいぶんといやな連中で……」という結論に至りますが、実際、同情もせずひたすらカキを食べまくる大工と、涙を流しながら、こっそり大工よりたくさん食べるセイウチとどちらがいいか考える、というのも不毛な話でしょう。
~教訓~
・知らない人には付いていくな
・世界が優しさと思いやりだけで出来ていると思うな
・過度な好奇心は身を滅ぼす
・自分の楽観で他人や家族を絶望に陥れてしまう事もある
・何となく大丈夫という楽観も危険である
・(親や年長者が真っ当なら)彼らの言うことを聞け、また、そう思われる大人であれ
・気づいた時にはもう遅い
・九死に一生などという甘い奇跡を期待しても、起こらないものは起こらない
・自分の身を守るのは自分
・どんな理由があろうと、残酷に判断すれば全て自業自得
事が起きてからいくら努めて学んでも遅い、自分がそういう立場になったら悔やんでも悔やみきれない事になるので気を付けて欲しい、という作者の想いや願いが込められているのかもしれません。
なお、当のアリス本人にはあまり響かなかったようですね(;’∀’)
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